中野 信子 vol.6

カテゴリ :
語録
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投稿者 :
木藤 大輔

運のいい人はいい加減に生きる

私がフランスの研究所で働いていたときには、毎日電車通勤をしていましたが、フランスの鉄道は日本の基準からいえば、かなりいい加減な運行をしているのです。ストライキの頻度は信じられないくらい多いし、理由がはっきりしない運休も突然あるし、止まるはずの駅に止まらないこともしばしばです。ユーザーとしてはとても不便です。でも、それがフランスらしさでもある、ともいえます。電車が止まったおかげで、突然ふってわいたご褒美のような休日を楽しみ、その一日を自分を豊かにするために過ごすことができると思えば、ストライキもなかなかいいものでしょう。
日本の列車とフランスの列車は実に対照的です。日本の列車が「正確」(あるいは、まじめ)なら、フランスの列車は(フランスの方には申し訳ないですが)「いい加減」といえます。
(中略)
たしかにフランスの列車は不便な部分も多々ありますが、いい加減ゆえの便利さもあるのです。たとえば列車のドアが閉まりかけたときでも、「すみません! 開けてください!」と言うと運転手が開けてくれるなどします。走ってくる乗客を待ってから出発する場面にも何度もあいました。
さらに、柔軟性があると、不測の事態に速やかに対応できます。考えが硬直していないので、不測の事態にどう対処するか、その発想が豊かになるのです。
また、いい加減な人は他人のいい加減さも許せます。他人の間違いにも「まあ、いいか」と寛容になれるのです。

中野 信子(なかの のぶこ)/科学者、医学博士、認知科学者

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