人の一生にはおおよそ半々の運・不運があるように考える人も多いかもしれませんが、ランダムウォークを仮定すると、人生という限られた期間における目の出方はある程度はどちらかに偏ってしまいます。しかし、圧倒的にマイナスだとか、圧倒的にプラスだという人も、存在しないといってもいいくらい、滅多にいるものではありません。
(中略)
みなさんは「錯覚」をご存じでしょうか。たとえば、こんなものがあります。何本かの平行な横線を描き、その上下に、黒・白の正方形を、上下ズラすように描く。すると、最初に描いた、平行なはずの線分が、めちゃくちゃにゆがんで見えるのです。どんなに気をつけて冷静に見直してみても、やっぱりその様に見えてしまう。
これは、ミュンスターバーグ錯視と呼ばれる有名な錯覚ですが、このような、錯視と同様のメカニズムが、人生に起こってくる時間を観察していくうえでも、つい働いてしまうのです。つまり、運がいい、悪い、というのは、脳がそうとらえているだけで、冷徹に現象面だけを分析すれば、まったくの錯覚にすぎない、ということになります。